1990年代の半ばに、私は設計製図の業界に入りました。当時すでにCADを用いた設計が主流になっていましたが、まだ各社にドラフターが置かれ、手書きでの図面作成も行われていました。手書き時代に鍛えられたベテランの方たちが図面の美しさについて語るのをよく聞きました。誰それの図面は見事だとか、字を見れば誰がかいたかすぐに分かるとか。1本の線を引くのも技術で、それぞれが自分の手書き図面への矜持をもっていました。最初にどこから書き始めるかが迷うとか、CADは全体が見渡しにくいからドラフターの様に大きい画面で全体を見たいというような話に、他の方がうなずいていました。そのうち手書きが本当になくなり、ドラフターも図面収納棚もオフィスから撤去されて、2DCADで図面を作ることが標準となり、たくさんあったCADソフトも2、3のソフトにユーザーが集まるようになりました。社内の整理のたびに、トレペの手書き図面を廃棄していましたが、技術者の方の手汗や紫煙を浴びながら作られた肉筆の図面を、せめて数枚でも残しておけば良かったと今は少し惜しく思います。
2000年代には3DCADも実用的に使われていて、当社も導入していましたが、ユーザーの多いソフトを皆が使うようになることを経験していたので、いつかAutoCADからプラント用の3DCADが発売されないかと待っていました。2010年に、Autodesk社からプラント配管設計用の3DCADソフトPLANT3Dが発売されることが発表されると、すぐに会社にお越しいただきデモンストレーションをしてもらい、その場で購入することを決めました。本当かどうかわかりませんが、日本で3番目に購入したということでした。持ってるだけで使わないのは新しいソフトによくある話ですが、幸い社内で3DCADに果敢に取り組んでくれる方たちがいたおかげで、当社では3DCADが定着し、今に至っています。
その後2010年代の半ばを過ぎて長かった不況の出口が見え始めたあたりから、どのプラントの設計においても3DCADを使った設計が標準になってきたように思います。計画も打合せも3Dモデルを使用して行うことが多いので、すでに紙に書かれた図面は、設計を理解したり打合せをするための資料としては、役割を終えつつあるように感じます。3D関連の機器やソフトウェアが開発され、それに伴いデバイスの性能を高め、操作を習得して社内で共有し設計の仕事に活用する。そういう作業を続けて、第一プラントの設計は、時代とともに進歩してきました。
2020年代に入り、様々な分野でAIの実用化が現実味を帯びてきたようです。通信とデジタル化に派生する変化の流れを、AIの進化が加速していくことでしょう。その流れは私たちの仕事にどのような影響を及ぼすでしょうか。私たちはこれまで新しい機能が出るたびに、それを評価し、選択し、適切な使用環境を整えては操作を習得し、作業の現場で新しい機能に指令を出して、適宜修正する、ということを繰り返してきました。その作業は、AIが進化を続け、対価を求めているかぎりは、無くならないのではと思うのですが、いかがでしょうか。
設計は地に足がついた仕事です。頭で考えたことを実際の物として作るために、設計という過程は必要で、重要です。意思伝達の媒体なので、コミュニケーションが鍵になります。私たちは設計の技術を磨いてお客様に技術サービスを提供することを原点として、時代とともに進歩を続けていきます。まるで、お客様も一緒になって皆で時代と追いかけっこをしているように思えます。変化に驚きながら追いかけていくのは楽しいです。私たちは、楽しさを感じながら時代の進歩の背を見て走っています。できるだけ前の方を走っていきたいと思います。